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謎の一般ゴルフ研究家(通称パンゴル)が、ゴルフメカニクス/メカニズムについて会話形式でお送りする、ゴルフエンターテイメントです。

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【乳酸その1】乳酸は疲労物質ではなくエネルギー源であることを知る

ゴルフ筋トレ

乳酸が疲労物質であるという認識は20年くらい前のおはなし

自分は坂道や階段をダッシュするとすぐに腿が上がらなくなります。こういう時、かつては「あー乳酸が溜まった~」などと呟いていました。

実際問題、乳酸が溜まっていることに間違いないと思いますが、短絡的にこのように表現してよかったのは20年くらい前まで。

今、このように表現すると「いやいや、乳酸は疲労の原因じゃないよ」と訂正されることでしょう。

日本の乳酸研究の第一人者である東京大学八田秀雄教授はこう言っています。

「乳酸は悪者ではない」「疲労物質ではなくエネルギー源である」と。

まずは、八田先生の著書「乳酸を活かしたスポーツトレーニング」をベースに乳酸について考えてみましょう。

乳酸は解糖系代謝の過程でできる

糖からエネルギー(ATP)を産み出す系(システム)は2段階に分けられます。解糖系酸化系です。

糖や脂肪はあくまでも[エネルギー”源”(燃料)]であり、ヒトが活動するために直接作用するエネルギーはATP(アデノシン三リン酸)になります。つまり、最終的にカラダがエネルギーとして欲っしているものは、ATPというわけです。

発電システムになぞらえて考えてみればわかりやすいのですが、太陽光発電は太陽光、風力発電は風、火力発電では石油や液化天然ガスがヒトの燃料である糖や脂肪に相当します。

発電システムの最終産物である電気がATPに相当するということですね。

解糖系と酸化系

(「乳酸を活かしたスポーツトレーニング」P4より引用)

上の代謝図をもとに解糖系と酸化系をざっくり見ていきましょう。

グルコース(ブドウ糖)がピルビン酸に変換される過程でATPが産み出されていますが、これが解糖系の代謝です。

そこで注目すべきはピルビン酸の右横に乳酸が描かれている点です。これは、乳酸は糖を代謝する解糖系の中で生成されることを意味します。

ミトコンドリアによってATPを産み出す系を酸化系と呼びますが、酸化系のなかで乳酸は生成されません。

乳酸は糖を燃料とする解糖系代謝の産物であり、酸化系の代謝では産み出されませんから、上図の左側に描かれている脂肪を燃料とする酸化系の代謝経路では、乳酸は生成されないことになりますね。

無酸素運動はあり得ない

酸化系の代謝においては酸素が必要とされます。解糖系の代謝においては必要とされません。

このことが無酸素運動・有酸素運動うんぬんかんぬんの発端だと思われますが、上図のエネルギー産生システムは一纏まりの代謝であり、ヒトが生きている限りいつも働いているわけですから「無酸素運動はあり得ない」といのうが八田先生のご意見であります。

無酸素運動がまかり通るのであれば、激しい運動をしても息は上がらないはずですが、実際にはゼーゼーハーハーと息はあがりますから、やはり無酸素運動はあり得ないとするのが正しい認識でしょう。

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乳酸作業閾値(LT)を知る

運動強度を徐々に増していくと糖の利用量も高まるため、血中の乳酸濃度は当然のごとく徐々に高くなっていくのですが、ある運動強度を境に乳酸濃度が急に高くなる点が出てきます。それが「乳酸作業閾値(LT)」です。(LT=Lactate Threshold)

(「乳酸を活かしたスポーツトレーニング」P57より引用)

LTでいったい何が起こっているのでしょうか。乳酸は解糖系代謝の産物ですから、LTで糖の代謝が急に活発になったと予測はできますね。

(「乳酸を活かしたスポーツトレーニング」P59より引用)

運動強度がLTに達するまでは、糖と脂肪のエネルギー供給量は五分五分。LTを過ぎると糖からのエネルギー供給が支配的になっています。

これがLTを過ぎて乳酸濃度が高くなる現象の正体です。

極端に考えるとわかりやすいでしょう。ウォーキングであれば糖と脂肪の使用比率は五分五分。対してダッシュしたときのエネルギー源はそのほとんどが糖になります。

LTの運動強度レベルは?

筋肉は大きく遅筋線維と速筋線維の2つに分けられ、遅筋は持久力の筋肉、速筋は力と速さの筋肉と言われます。

そして、酸化系の代謝を担うミトコンドリアは、遅筋に多く、速筋には少ない。

つまり、遅筋は酸化系代謝を主とし、速筋は解糖系代謝を主とするといえるでしょう。

これを踏まえて考えれば、なんとなくLTの運動強度が見えてくるのではないでしょうか。

LTを境に乳酸が増え始めるのですから、LTから速筋線維が使われ出すと考えられます。

(「乳酸を活かしたスポーツトレーニング」P62より引用)

八田先生によれば「息がハーハーするくらいの運動強度がLTの目安」とのことです。

この運動強度をゴルフで考えてみると、、、、あまりないですね。ボールを探しに急いで斜面を駆け上ったりしたときでしょうか。

ただ、スイング中は間違いなく速筋線維を多く使っています。

連続的にスイングを繰り返せばLTレベルの運動に達するでしょうが、そういうシチュエーションはまずありません。

ゴルフスイングのような瞬発的な動きは、筋肉に貯蔵されているクレアチンリン酸(CP)からのエネルギー供給のほうが重要であると考えています。

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乳酸の代謝経路から知る “エネルギー源” 説

ここまでのお話で、糖(グルコースならびにグリコーゲン)はピルビン酸に変換される際、副産物として乳酸を生成することがわかりました。運動強度が上がり速筋線維が動員されたとき、一気に乳酸濃度が上昇します。そのポイントがLTです。

このことから、速筋線維は乳酸生成装置であると言えます。

 

ここで、一番最初にご紹介した図を思い出してください。

ピルビン酸の右横に乳酸が描かれており、ピルビン酸と乳酸の間には左右方向の矢印が描かれています。

図によれば、速筋線維による解糖系代謝によって生成された乳酸は、逆(左向き)の矢印の流れに沿ってピルビン酸に戻り、酸化系の代謝によって酸化されエネルギーを産み出すことも可能なはずです。

先項で遅筋線維にはミトコンドリアが多数存在すると述べましたが、皆さんご察しの通り、速筋線維によって生成された乳酸は一旦プールされた後ピルビン酸に戻り、遅筋線維に多数存在するミトコンドリアによって酸化されエネルギー(ATP)を産み出すのです。

これが、八田先生の言う乳酸エネルギー源説のメイン回路です。

 

脂肪酸によるエネルギー生成量がLTを超えた段階で減少していくのは、糖を代謝するよりも複雑な反応を要求されるからであり、それを待っていたのではエネルギー供給が間に合いません。そこでヒトのカラダは糖を利用するようになっています。

さらに、糖を分解して生成された乳酸はすでに反応が進んだ状態といえますので、エネルギーとしても利用しやすいはずです。

ですから、乳酸がある程度多量に存在する場合は、LT以下の運動強度であっても脂肪酸より乳酸の利用を優先させたほうが合理的かつ容易でしょう。

このように考えれば、乳酸は疲労物質ではなく、そもそもがエネルギー源として生成されるものであると言うことができそうですね。

乳酸シャトルとコリ回路

「解糖系によって生じた乳酸は、血液に乗って肝臓に行き糖新生の材料になる」これがコリ回路です。

しかし、八田先生の説では、乳酸はピルビン酸に戻って酸化されATPを産み出すわけですから、グルコースには戻らないことになります。

単純に考えて、乳酸をグルコースに戻して解糖する手間が省かれるため至極合理的。このような代謝経路を乳酸シャトルと呼びます。

もちろん、乳酸を直接エネルギー源として利用する場合の条件として、その時の活動量が関係してくることでしょう。運動中は乳酸シャトルが優位となり安静時にはコリ回路が優位になるなど。

 

念のため、コリ回路の模式図を以下に示しておきます。右側が筋肉、左側が肝臓です。

活動量が多いときは、筋肉から出た乳酸が血液に乗って肝臓でグルコースに変換されるのではなく、各器官の遅筋(骨格筋や心筋など)に運ばれ直接的に消費されると考えています。右側の筋肉内の図、ピルビン酸と乳酸の間に交互矢印が示されていることにも注目してください。

また、人間の細胞には乳酸を取り込むための乳酸トランスポーターが存在することも付け加えておきます。(速筋には排出用、遅筋には取り込み用のトランスポーターが存在するそうです)

(上図:ハーパー・生化学より)

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スポーツにおいて乳酸が代謝される状況とは?

これはサッカーやラグビーを例にするとわかりやすいです。八田先生の著書にこう書いてありました。

  • 球技ではダッシュで乳酸が作られ、ジョッグで乳酸が使われる

ボールの近くで球を追っているときは多くの乳酸が生成されますが、ボールから離れて戦況を見ているとき、つまりジョッグや歩いている状態のとき乳酸が使われるということです。

さらに、ミトコンドリアで作られたATPは結果的にクレアチンリン酸として蓄えられるとのこと。つまり、ハーフタイムで遅筋を使う軽運動を行えば、その間に乳酸をエネルギー源としてクレアチンリン酸を補充できることになります。

 

これを筋力トレーニングに活用すると、、、

規定レップ数をこなしたあとインターバルを取ると思いますが、その際ベンチに腰掛けたりせず軽く体を動かすようにすると早めに乳酸を消失させることができるかもしれません。

自分はベンチに腰掛けて休むことが多かったため、これからは少なくともうろうろ歩いてみようかと思います。

ご参考:ATPは結果的にクレアチンリン酸として蓄えられる

ハーパー生化学(医学生の生化学テキスト)に記載されていた、クレアチンリン酸の合成フローをご紹介しておきます。

ハーフタイムで遅筋を使う軽運動を行えば、その間に乳酸をエネルギー源としてクレアチンリン酸を補充できると先述しましたが、下のフローを眺めていれば、なんとなくイメージが沸くと思います。

以下、ハーパー生化学原書30版より引用。

クレアチンリン酸は筋肉における主要な貯蔵エネルギー源である

クレアチンリン酸は、ADPからATPへの再生に必要な高エネルギーリン酸をすぐ使える形で供給し、ATPが急速に枯渇しないようにはたらく。クレアチンリン酸は、筋肉が弛緩してATP要求性が比較的低いときに、ATPとクレアチンからつくられる(上図参照)。クレアチンのリン酸化を触媒する酵素はクレアチンキナーゼで筋肉特有の酵素であり、急性や慢性の筋疾患の有無を判断するために臨床的に利用される。

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まとめ

代謝のしくみ知ることで「乳酸は疲労物質ではなくエネルギー源である」と認識いただけたと思います。

乳酸が疲労物質であると言われた理由は、「蓄積するとカラダ(細胞内)を酸性化してしまうため」でしたが、実際には乳酸濃度は運動後30分から1時間で元の状態に戻るそうです。しかし、運動後1時間以上経っても疲れが残っていることなんてざらにありますから、乳酸を悪者にしてしまうと辻褄が合いません。(※酸性になると体の中の様々な酵素の働きが鈍ってしまうため、アルカリ性のほうが良い)

今後「乳酸を悪者扱い」する人が周りにいらっしゃいましたら、「乳酸にはエネルギー源という側面がある」ことを教えてあげてください。

ちなみに、乳酸は肝臓においてグルコースに戻ることもできます。これをコリ回路といいますが、私はこのコリ回路のほうが乳酸代謝のメイン経路であると思っていました。

しかし、八田先生の著書を読んで、本来乳酸の代謝はコリ回路がメインではなく、ピルビン酸に戻り最終的にミトコンドリアで酸化される経路がメインではないかと考えを改めた次第です。

ただ、乳酸の蓄積は健康にはよくないようだ

私がいつも健康情報入手のために参考にさせていただいている精神科医藤川徳美先生のブログには「絶対に乳酸は体に溜めるな。乳酸の蓄積が慢性病やがんの原因になる」と述べられています。

生体内のどんな代謝にも酵素の働きは必須です。酵素が働くには補酵素(補因子)であるビタミン、ミネラルが十分であることも条件となります。

糖質過多、タンパク質不足、ビタミン・ミネラル不足、さらに付け加えるなら慢性的な運動不足の方は乳酸が体に蓄積している傾向にあるかもしれません。

この辺りの話は今後別記事にしたいと考えていますが、とり急ぎ健康に不安のある方は、何はともあれプロテイン、ビタミンB1、B2、ナイアシンが不足しないようサプリメントをうまく活用されることをお勧めします。

普段からビタミンB群(B-50)をサプリメントとして摂取されている方にとっては当たり前のお話ですね。

ゴルファーの乳酸代謝はどんな感じ?

先述の通り、ゴルフではその性質上、乳酸がどんどん生成されるような状況はあまり考えられません。

ただ、ラウンド後半で毎回なんだか疲れてしまう方もいらっしゃると思います。そのような方はクレアチンの摂取を試してみてはいかがでしょうか。

ラウンド中のドリンクをEAA(必須アミノ酸)にして、それにクレアチンを溶かしておくなどすればラウンド後半の疲れもある程度解消されるかもしれません。

さらにマルトデキストリンを加えれば、、、つまりは筋トレ中のワークアウトドリンクになりますね。

意識高い系のプロゴルファーやアマチュアゴルファーの方は既に試されていることと思いますが。

参考書籍

乳酸についてさらに詳しく知りたい方は一度本書をお読みになることをお勧めします。