昨年(2019年5月)投稿した「インパクトで手元を止める意識」は捨てなさい、の続編になります。

手元を止めてはいけない理由をもっと詳しく
先日、「地面反力を利用したジャンプ打法」の記事を書くにあたって、コリオリ力について調べていたところ、理化学研究所の研究員さんのスライドを見つけました。
(理研 清水氏の「効率よいスイング動作の秘訣について」スライドのスクリーンショット)
※ 1つめの項目には、最初に「胴体の」を付けてお読みください。
「なるほど~」と、これを読んで最初に呟いたのですが、私の考えをまとめると以下のようになります。
- 「(胴体の)加速を止める必要さえない」「胴体を自ら減速するとヘッドスピードも落ちる」ことは、理研の研究によって判明した事実。
- 手元を止める意識を持ってしまうと、胴体も自然と止まってしまうのが人間。つまり、手元を止める意識がヘッドスピードを落とす。
- ゆえに、手元を止める意識をもつ → 胴体が止まる → 結果的に、手元を止める意識はヘッドスピードの低下を招く。
どうでしょうか。インパクトで手元を止めてはいけない理屈がそろった気がするのですが。
インパクトで胴体や手元を止めると運動量は地面に戻る
「効率よいスイング動作の秘訣について」にはスライド以外に予稿もあるのですが、その中に非常に興味深いことが書かれていました。
もう1つの「左のカベ」は、ボールを打つ瞬間に胴体や腕の運動を止めるような力を加えなさいという教え [7] である。しかし、これは残念ながら間違っている。この教えの物理的な理由付けは、こうである:「×胴体や腕を止めることにより、胴体・腕の持つ運動量は減少する。運動力学の法則によれば、全運動量は保存しないといけないので、減少した分の運動量はクラブヘッドに移り、こうしてクラブヘッドは加速される×」。これは物理学の初学生がよく陥りやすいミスである。地面、つまり、地球を見落としてしまっている!重い胴体は足を使って動かすものであって、ふつう手ではやらない。胴体を止めるような動きをすると、せっかく蓄えられた運動量は足を通して地面へと戻っていくだけである。胴体の運動量を手の先にあるクラブヘッドへ移すためには、やはり手をうまく使わないといけない。うまく使った結果として、手を通して運動量は胴体からクラブヘッドへと流れ込んで、クラブヘッドは加速され、胴体は反作用として減速をうける。あくまでもこのような「左のカベ」は、この動作技術が成功したときの結果として得られる現象であって、自ら構えて作るものではない。
(「効率よいスイング動作の秘訣について:清水 鉄也, 望月 義幸, 姫野 龍太郎」より引用)
太字の部分だけ抜粋して読んでましょう。
ふむふむ。納得至極。
緑枠内の、太線抜き出し部の内容は理解できました。しかし、不可解な点が2つ残ります。
- スライドのスクリーンショットにある「(胴体の)加速度上昇をやめ、加えるトルクを弱めるだけ」
- 上記引用分の下線部にある「胴体の運動量を手の先にあるクラブヘッドへ移すためには、やはり手をうまく使わないといけない」
これらについて自分なりの見解を述べておきます。
自発的に「加速度上昇をやめ、加えるトルクを弱める」のは難しい
理研の研究では、「(胴体の)加速度上昇をやめ、加えるトルクを弱める」のが最も効率的であるという結論に至っており間違いないと思いますが、それをやろうと思えば、自ら胴体を減速させないといけないような。。。本末転倒ではないですか?
ですので、“手を通して運動量は胴体からクラブヘッドへと流れ込んで、クラブヘッドは加速され、胴体は反作用として減速をうける“状態が自然に作られるスイングを目指すべきではないかと。
となれば、下半身の動きは、腰がどこまでも回ってしまうようなスイングではなく結果的にべた足系のスイングになるでしょう。
また、スライドにヒントがあります。
「遠心力の作用により、コック角を戻して、運動量をクラブヘッドに流し込んであげる」そうすれば、クラブヘッドの加速の反作用で胴体は減速することになるはずです。
遠心力を使ってあげましょう。つまり、手首をガチガチに使うのではなく、プラプラの状態にして自然にコック角が戻るようにしてあげればいいんです。
手をうまく使うとは?
手をうまく使おうと思えば思うほど、余計な力が入って、逆にヘッドスピードが落ちてしまう人も多いはず。その多くの原因が、手を使う意識がもたらす手首の折れ(フリップ)ではないでしょうか。
インパクト時の理想的な手首の状態は、左手掌屈、右手背屈だと言われています。
胴体と下半身を完全に止めて、手が体の中心から外れない状態でクラブを振ってみてください。手首が折れないよう左手掌屈、右手背屈の関係性を保ったまま振ろうと思えば、腕を旋回させない限り振れないことに気づくはずです。
ですので、手をうまく使うのではなく、腕(前腕)がうまく回旋するように使いしましょう。これが手首をフリップさせないコツです。
ご参考:二重振り子
二重振り子の記事でも書きましたが、「手首はできるだけプラプラ状態で、体と腕を同調させ、(腕に)自然な回旋運動を入れる」ことで、左腕とゴルフクラブの間に効率的な二重振り子の関係性が誕生します。
このことからも、手ではなく腕を使うほうが重要で、特に前腕の回旋の動きがキーとなってきます。
まとめ
自分で胴体や手元を止めてしまうと、かえってヘッドスピードが落ちてしまうことがわかりました。
正しい動作でヘッドを加速させることができれば、その反作用として胴体および手元は勝手に減速するのですから、意識して止めるようなことは絶対にしないようにしましょう。
「逆しなりで飛ばす」なんてことを目指して、手元を止めようと練習している方も、それは今すぐやめたほうが賢明です。
一所懸命に蓄えた運動量を、自分で地面に戻してあげてしまうなんて、せっかくお風呂に水を溜めたのに、自分で栓を抜いて首をかしげているようなものですよ。
参考資料
理化学研究所 生体シミュレーション研究プロジェクト 運動シミュレーションチーム