ゴルフのスイング解説で度々耳にする二重振り子。二重振り子スイングを体得すると、どうなるのでしょうか。
- ヘッドスピードが上がり、飛距離が伸びる
- プロのようにやわらかく、しなやかな「ムチ動作」になる
- その他、すべてが良くなる
3つ目は何やら怪しいですが、まんざら嘘でもありません。二重振り子はゴルフスイングの根本原理なのですから。
二重振り子とは?
平たく言えば、セグメントを2つ持つ振り子のことで、ゴルフスイングでは、左腕(もしくは両腕の中線)が第一セグメント、ゴルフクラブが第二セグメントになります。
百聞は一見に如かず、まずは下の画像をご覧ください。
カオスですねー。私にはオタ芸のようにしか見えません。
ゴルフクラブを持ってこんな動きは到底できませんが、それはひとまず置いておいて、第2セグメントの動きに注目してください。
第一セグメントがそれほど大きく振られているわけでもないのに、第二セグメントはクルクルと高速回転します。
当然ながら、第二関節にはモーターなどの動力源は取り付けられていません。にもかかわらず、二重振り子という条件下においては、これだけの大きなトルクがナチュラルに発生するのです。
詳細は後述しますが、ここでは「第二関節は振られるだけで大きなトルクを生みだすことができる」という事実を認識していただければと思います。
二重振り子はゴルフスイングの根本原理
昨今おかしなことに、切り返しからコックをほどくような、いわゆるキャスティングやハンドレイト気味のインパクトを推奨するレッスンプロが出てきています。
しかし、力学的に言って、キャスティングやハンドレイトなインパンクトは、二重振り子の恩恵が受けられなくなってしまうマイナスの動作。絶対にやってはいけない動作なのです。
なぜなら、第二関節に自然に発生するトルクを消失させてしまうからに他なりません。
二重振り子スイングにはタメが必須
ゴルフスイングのレッスン書などで、よくハンマー投げが取り上げられますが、そのほとんどがスイング感覚を伝えるため。力学的にこうだから、こうしなさいとする意味合いでの説明は見たことがありません。
言うなれば、皆さん感覚で物を言っているだけのことです。
ということで、ここで私が、レッスンプロの皆さんの主張を裏付ける役目を買って出ることにしましょうか。
まずは、下の画像をご覧ください。
人体図右側の模式図にT2と描かれていますが、これは二重振り子の第二関節に自然発生するトルクを意味しており、回転矢印の方向は、力の発生する向きを示しています。
ここで、なぜ、T2にトルクが発生するのかを考えてみましょう。
実は、その答えはとても簡単、腕の中線とハンマーの間に角度θがついているからです。
これは、数学的に外積を用いて説明することができますので、続けて下のイラスト画像をご覧ください。
難しく考える必要はありません。
本当に単純に、第一セグメントと第二セグメントを辺とした平行四辺形を描くことができれば、それだけでトルク(T2)が発生すると覚えてしまいましょう。
このT2トルクは、第二関節を起点とした平行四辺形に垂直な軸周りに発生し、平行四辺形の面積が大きさを表しています。
ですので、T2トルクが最も大きくなるのは、θが90度のとき。この角度が最も効率がいいわけです。
このように、力学的に考えてタメは必須。
タメができていなければ、そもそも二重振り子にはなりませんし、その恩恵も受けることができなくなります。
ハンドファーストインパクトが絶対的に正しい
ハンドファーストのほうが、ハンドレイトよりも絶対的に正しい。これも上記の理由によるものです。
インパクトでボールに力を伝えたいのであれば、ほんの少しでいいから、ハンドファーストになっていなければなりません。ハンドレートだとT2トルクはマイナスに働きますから。
兎にも角にもハンドファースト。もう迷う理由はありません。
二重振り子スイングでは、手首の力が不要になる
「手首プラプラの状態で振ると良い」と聞いたことがあると思いますが、まさにその通り、二重振り子スイングに手首(リスト)の力は必要ありません。
全くのゼロで良いかと言われれば、それはそれで微妙ですが、とにかく能動的にトルクを生み出すような力は不要だとお考え下さい。
「トップアスリートの動きは何が違うのか 山田憲政 著」にこうあります。
当時、私の恩師でもあり日本のスポーツ・バイオメカニクスの礎を築かれた小林一敏教授が、ふたつの木を滑りのよい蝶番で接続して二重振り子を自作し、その根元部分を手でもち小刻みに振動させて末端部を高速で回転させる実演をされた。そしてこの末端部の速度は、ときには音速近くまで到達するほどであり、当然筋の収縮スピードで生じる運動をはるかに上回るものであると説明された。
中略
さて、二重振り子の運動原理は人間の関節運動にたとえてみると、ふたつの意味で重要な問題を提起するといえよう。ひとつは、関節2に直接筋力が作用しなくても回転運動が生じることであり、もうひとつはこの関節に筋力が働かないほうがより高速な運動を生むという事実である。
手首に筋力を働かすことが、逆にマイナスに作用すると山田先生は語っています。
絶対に手首は絶対に捏ねちゃダメです。ボールの先でクラブのリリースが完了するようなイメージがベストかと思われます。
究極は手首プラプラ状態か?
大事なことは何度でも。
「関節2に直接筋力が作用しなくても回転運動が生じることであり、もうひとつはこの関節に筋力が働かないほうがより高速な運動を生む」
これをそのまま受け取るなら、手首はプラプラ状態が理想的といえますが、はたしてそうでしょうか。
以前私は、飛球線前方または後方から見た時のインパクトにおける腕とシャフトの角度は保たれていたほうが良いという記事を書きました。
本当に手首プラプラ状態だと、腕とシャフトが一直線になってしまいます。確かにデシャンボーは一直線ですから、それも悪くはないと思いますが、やはりトルクを損することは否めません。
であれば、何らかの工夫が必要になりますが、その一つがグリッププレッシャーでしょう。
10本の指でガチガチに握れば、飛球線前方または後方から見た時の腕シャフト角は維持できますが、ご存じの通り手首プラプラにはなりませんので、タメを作ることが困難になります。
ということで以前、左手小指をキュッと握って、ゆるしっかりを推奨した次第です。
そしてもう一つが、インパクトに向けて腕を旋回させる動きです。感覚的な話になりますが、前腕を体の回転に同調させ、旋回させるイメージでしょうか。
ただし、腕を旋回させようと意識することで、手首に余計な力が入ってしまうことも考えられますから、やりすぎは禁物です。
あくまでも、理想は腕の旋回が自然に起こること。
そこで長い間あれこれ考えを巡らしていたわけですが、とうとうこれだ!と思えるものを発見しました。
それが、シャフト軸周りのローリング(回転)です。
ローリングを意識することで、腕は自然に旋回します。そして、左手は掌屈、右手は背屈の理想的なインパクトの形が手に入ります。
さらに、クラブヘッドに発生するシャフト軸周りのトルクも増大しますので、飛距離アップも望めるはずです。
ローリングはまさに、一石三鳥。是非、お試しください。
まとめ
二重振り子は習得するというよりもスイングの根本原理ですので、プロや上級者は皆、普通にできています。
プロのスイングが滑らかな理由は、いわゆる「ムチ動作」によるもの。これが二重振り子スイングによって体現されているわけです。
調子が悪くなった時、変な方向に走らないようにするためにも、二重振り子の原理をいつも頭の片隅に置いておくことにしましょう。
知識があれば、少なくとも遠回りする回数は減るはずです。