グリップは、小鳥を包み込むよう「ゆるゆる」に握るべきか、クラブを引っ張られても抜けないくらいに「しっかり」握るべきか、誰しも一度くらいは悩んだことがあると思います。
私は結局、左手の薬指と小指はしっかり握り、残りはゆるめの「ゆるしっかり」グリップに落ちついたのですが、これが本当に正しいのかどうか、ずっと確信できずにいたのでした。
しかしながら、アンテナを張っていれば、いつかは役に立つ情報も集まってくるはず・・・ということで今回は、ゴルフ本以外で「ゆるしっかり」が肯定される根拠を見つけることができましたので、その情報を皆さんとシェアできればと考えています。
グリッププレッシャーにお悩みの方はご参考くださいませ。
左手は比較的しっかり、右手はあてがうだけ
これから話を進めて行くにあたり、まずはプロゴルファーや上級者が持っている共通の感覚について考えてみなければなりません。
というのも、グリッププレッシャーは主に左手だけで感じるもの。右手はあてがうだけという現実がありますから、「ゆるゆる」か「しっかり」かを語る際、右手の感覚まで論じる必要性はなく、左手のみの感覚を論じればいいわけです。
ですので、これからの内容は基本的に左手についてのお話であり、右手は特殊なケースを除き「ゆるゆる」であることを前提とさせていただきます。
多分ですけど、プロゴルファーや上級者でグリップをしっかり握ると言う人でも、右手までしっかり握っている人はいないか、もしくは極端に少ないのではないでしょうか。
左手が比較的しっかりとなる理由
左手の役割は、クラブを支えることにあります。
フィンガーで握ってもパームで握っても、小指側の土手でクラブを下向きに押さえる感覚は共通しているはずで、これは、左手人差し指がクラブを支える支点となりますから、重いクラブヘッドを支えるためには小指側の土手が力点として使われることになるためです。
このようにして、クラブの重さを左手で受け止めるわけですから、左手に比較的しっかりとした感覚が芽生えるのは自然の道理。
これが、左手が比較的しっかりとなる理由だと言って良いでしょう。
ということでここからが本題です。
ゴルフ本以外で見つけた「ゆるしっかり」の根拠を示していきたいと思います。
指の神経支配がグリッププレッシャーのヒント
私の愛読書、「ウェイトトレーニング -実践編-」(山本義徳著)から、指の神経支配に関する記述を引用して説明していきましょう。
親指と人差し指、中指は「正中神経」によって支配されています。いっぽう、小指は「尺骨神経」によって支配されています。薬指はその両方です。そして腕の筋肉である上腕二頭筋、上腕筋は筋皮神経(C5,C6,C7の根)の神経支配を受けています。
正中神経はC6,C7,C8とT1の神経根から起こっています。つまり正中神経は上腕二頭筋や上腕筋と密接に関連しているということです。
尺骨神経はC8およびT1から来ています。つまり尺骨神経は上腕二頭筋や上腕筋との関連性が正中神経に比べて少ないということになります。
そのため親指や人差し指、中指を使うと上腕二頭筋や上腕筋を使いやすくなってしまうのです。なお薬指は親指側半分が正中神経、小指側半分が尺骨神経の支配を受けています。小指だけで握るのは大変ですから、薬指を使ってしまって構いません。
本引用文はチンニング(懸垂)のグリップの仕方について述べられたものですが、左手のグリッププレッシャーを語る上で、非常に参考になる解説だと思われます。
正中神経に支配されている「親指・人差し指・中指」を使うと、上腕二頭筋、上腕筋が緊張してしまうため、力みにつながる可能性が出てきてしまうと。
しかし、「小指」であればグリップをしっかり握っても尺骨神経支配となりますので、上腕の緊張からは解放されるというロジックです。
ただ、ゴルフクラブを「小指」だけで支えるのは心許ない、というかクラブを支えること自体が困難となってしまいますから、正中神経、尺骨神経が半々である「薬指」まで使ってグリップするのが良いかと思います。
左手三本指でしっかり握るは間違いじゃないだろうか?
「左手は、中指、薬指、小指の三本を使ってしっかり握る」とする教えがありますが、私は中指は全く意識しなくて大丈夫ではないかと考えています。
というのも前述した通り、左手人差し指が支点、左手小指側の土手が力点となるテコの原理でクラブ全体を支えるのが王道ですから、そう考えると、中指はむしろ邪魔な存在。支点なのか力点なのか、どっちつかずの存在であるわけです。
小指と薬指は、力点となる小指側の土手に隙間なくグリップをあてがうためにキュッと握ったほうが良いでしょう。
しかし、中指をキュッと握ったとしても、それが支点を強固にするためだとは思えず、かといって力点を強固にするためだとも思えません。
神経支配による無駄な力みを極力排除することを思えば、中指をキュッと握る必要性など何処にも無いと判断できますが、いかがでしょう。
ゆるゆるグリップでも球は飛ぶ
「ゆるゆる」だと球が飛ばないような気がするため、グリップはしっかり握るようにしている方も多いと思います。
確かに、ゆるゆるすぎるグリップは、球をヒットした瞬間ヘッドが当り負けして飛ばないような気もしますが、本当でしょうか。
「<知的>スポーツのすすめ」(深代千之著)に、非常に興味深い実験結果が載っていましたので、ご紹介させてください。
そして、野球でもテニスでも、指導書をみると、インパクトのときはグリップを「ギュッ!」と握れ、と書いてあります。インパクト時にグリップを握るのは指導において妥当のように思えますが、宮下充正博士は、この現象を実験で検証しました。その実験は、テニスラケットのグリップを万力で机の端に固定した「万力ラケット」と、ラケットをただ単に机の上に立てた「棒立ちラケット」の二条件で、テニスボールをラケットのスウィートスポットに当てて跳ね返る様子をビデオ解析するというものです。「棒立ちラケット」はもちろんボールが当たると倒れますが、驚いたことに、ボールがラケットに当たった後のスピードに「万力」と「棒立ち」ラケットの両者で差がなかったのです。
なんと、グリップが固定されていてもいなくても、跳ね返り速度に違いはなかったということでした。
つまり、飛距離にグリッププレッシャーの強弱は関係しないことが判明したわけです。
となれば、「ゆるゆる」グリップが望ましい。余計な力みは極力排除されるべきです。
ただし、この実験結果は、スウィートスポットでのヒットが前提条件となっていることを忘れてはいけません。
ミスヒットの可能性が高くなるような状況下では、当たり負けを考慮して、ある程度しっかり目に握ったほうが無難でしょう。
極端な急傾斜地や深いラフなど、グリッププレッシャーにも状況に応じた工夫が必要であるはずです。
まとめ
グリップ感覚は千差万別。とはいえ、ここまでの内容を考慮して、その感覚を言葉で表現すれば以下のようになるかと思われます。
- 左手内のテコの原理でクラブヘッドを支えることになるので、小指側の土手に圧を感じるはず
- グリップは、薬指と小指でキュッと握る(ギュッではない)
- 項目1.2が正しく出来た上での「ゆるゆる」感覚が望ましい
1に関しては、ベン・ホーガンも、日本の有名レッスンプロもそう言ってますから間違いないと思います。
2に関しては、神経支配の関係から説明すればそうなるといった話で、正直なところ、ご自身で最適な指感覚を模索するしか方法はないと考えています。オーバーラッピングとインターロッキングのように、グリップが変われば左手に感じる感覚もだいぶ変わると思われますし。
3に関しては、手首の余計な力みをなくすためにも「ゆるゆる」感覚で間違いないでしょう。特に1の感覚が掴めていれば、インパクトでクラブが垂れるサムダウンも防止されるはずです。
また、手首の関節に無駄な力が掛かっていないことが、ゴルフスイングの根本原理である二重振り子スイングを成功させるための前提条件です。そう考えればますます「ゆるゆる」感覚が大事になってきますね。

ということで、「ゆるゆる」と「しっかり」どっちが正しいのかと問われれば「ゆるゆる」感覚のほうが正しいと思います。
しかしながら、1と2の感覚がつかめていれば、左手にはしっかり感も残るはずで、そうなると「ゆるしっかり」と言ったほうがしっくりくることでしょう。
「ゆるゆる」とか「しっかり」とか「ゆるしっかり」とか、これらはあくまでも感覚の話。言うまでもなく結局、自分の感覚を信じるしかありません。