ゴルフスイングの解説でよく耳にする「慣性モーメント」。
よくわからないという方も多いと思いますが、簡単に言えば、皆さんがゴルフスイング中に「感じる重さ」、実はこれが慣性モーメントの正体なのです。
ゴルフクラブの重量が全く同じものであったとしても、異なる振り方をすれば、重くも感じますし、軽くも感じます。なぜなら、振り方によって慣性モーメントの大きさが変わるから。
軽いもののほうが速く振れるのは当然のこと。ですから、慣性モーメントをうまいこと使うことができれば、ヘッドスピードも上がると言って間違いありません。
では、どのようにすれば、慣性モーメントをうまく使いこなすことができるのか?一緒に考えていきたいと思います。
慣性モーメントとは?
慣性モーメントの「大・小」を、まずは単純な動作で体感してみましょう。
下図①のように、ゴルフクラブをヘッド側とグリップ側、両方のケースで持ってみてください。
[クラブヘッド側を持つ]
[グリップ側を持つ]
図①
左側のようにヘッド側を持ったほうが軽く感じますよね。逆に、グリップ側を持つと重く感じるはずです。
感じる重さと慣性モーメントとの関係を表にまとめると以下の通りになります。
感じる重さ | 慣性モーメント |
軽い | 小 |
重い | 大 |
地球には重力が働いていますから、クラブヘッドには「重力加速度xヘッドの重さ」分の力が加わります。
すると当然ながら、クラブヘッドは図②のように手を中心として回転しようとしますから、それを支えるため自分で筋力を発揮することになります。
この発揮した筋力の大きさが重さとして感じられたわけです。
[ヘッド側:回転円が小さい]
[グリップ側:回転円が大きい]
図②
感じる重さの違いが、慣性モーメントの大きさの違いです。そして、回転円が小さいときより、大きいときのほうが重く感じます。
よって、慣性モーメントの大きさは、力が作用する点(ヘッド重心)からの距離に比例し、距離が長くなると大きくなり、短くなると小さくなることがわかります。(もちろん、ヘッド重量の大・小にも依存します)
また、慣性モーメントが大きいと、それだけ大きな力が必要となるわけですから、裏を返せば、非力な人ほど、慣性モーメントをうまく使いこなす必要があると言えるわけです。
もちろん、筋力に自信がある方も、慣性モーメントをうまく使いこなせばプラスになることは、言うまでもありません。
ちなみに、慣性モーメントの慣性とは、惰性(だせい)のこと。
惰性ですから、その言葉どおり「止まっているときはその場に留まり続けようとし、動いているときはそのまま動き続けようとする性質」を持っています。
100m走で、スタートダッシュに爆発的な力が必要なのは、その場に留まろうとする惰性が働いているから。走り切って、ゴールラインでピタッと止まれないのは、動き続けようとする惰性が働いているからです。
タメを作って慣性モーメントを小さくする
飛距離アップさせるには、ヘッドスピードをアップさせるのが最も手っ取り早い方法です。
そこで、ヘッドの重さが極端に違う2種類のクラブを振ったときについて考えます。
300gの軽いヘッドと1kgの重いヘッドのクラブを振ったとき、どちらのクラブのほうが速く振れると思いますか?
答えは簡単、誰しもが、300gの軽いほうが速く振れると答えることでしょう。
そこで、ヘッドの重さが300gの軽いクラブを、2種類の極端に異なる振り方で振ってみます。
一つは、腕とシャフトが常に一直線になるような振り方、もう一つは、ある程度コックやタメを使って振る通常の振り方です。
おそらく、通常の振り方のほうが軽く感じるはずです。なぜなら、コックやタメを入れると、スイングの回転中心からヘッドまでの距離が短くなるためです。
つまり、通常のスイングは、腕とシャフトが一直線になるスイングよりも、慣性モーメントが小さくなるように振ったことになりますから、軽く感じるのは当然のこと。その結果ヘッドスピードが速くなったとわかります。
もうおわかりでしょう。
体の回転軸とヘッドとの距離が短いほど、慣性モーメントは小さくなり、その結果、速く振れるようになるのです。
慣性モーメントが小さくなるように振るためには、いわゆるタメが重要です。タメができれば、体の回転軸からヘッドまでの距離が短くなりますので、速く振るのに有利に働くというわけです。
※ここでのタメとは、コック角が90度くらいの腕とクラブにおけるタメを意味します。
慣性モーメントのうまい使い方
慣性モーメントをうまく使うとは、具体的にどのような使い方になるのかを考えてみます。
前の章で、ヘッドスピードを上げるためにはタメが必要であると述べましたが、いつまでもタメ続けていたのではボールを打つことなどできません。
ですから、どこかのタイミングでタメをリリースしなければならないのですが、そうすると、当然ながら慣性モーメントも大きくなってしまいます。
ただ、慣性モーメントが大きくなるからと言って、クラブヘッドがすぐに減速するわけではありません。
ここで、慣性とは、惰性であることを思い出してください。
「止まっているときはその場に留まり続けようとし、動いているときはそのまま動き続けようとする性質」が慣性であり惰性ですから、ヘッドが加速され、スピードが乗っていれば、もうイケイケ状態。
そのまま動き続けようとするわけですから、インパクトに向けて慣性モーメントが大きくなろうと、ヘッドはそのままのスピードで走り続けようとするのです。
つまり、切り返し直後ではタメを作って慣性モーメントを小さくしておき、スピードが乗ってきたらインパクトに向けてタメをリリースして、今度は、慣性モーメントを大きく使う。
ただし、自発的に手首の力でタメをリリースするのではなく、遠心力を使って自然にリリースすることを心掛けます。
二重振り子がゴルフスイングの根本原理。ですから、手首に力を入れてしまうとそれはマイナスに作用します。手首はプラプラ状態が望ましく、手首に力を入れるほどクラブヘッドは加速しなくなるのです。(二重振り子の詳細は、こちらもしくは記事最後のリンクから)
まとめ
慣性モーメントは、ダウンスイングの前半で小さく、インパクトでは大きくが正しい使い方です。そのためには、切り返しからのタメが重要で、さらに遠心力を使ってリリースできれば言うことありません。
しかしながら、クラブヘッド加速のメカニズムはもっと複雑で、とても慣性モーメントの理屈だけでは説明できません。
加速のメカニズムについて理解を深めたい方は、こちらの記事も参照ください。
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