本の概要
ドラコン選手の南出 仁寛 氏と岡本 啓司氏による飛ばしの極意書。
著者のお二人によって考え出された「スプリントスイング理論」の詳細が、この本で述べられている。
”スプリント”という言葉から想像できる通り、この理論のキーとなるのは「走る動き」。ひざの曲げ伸ばしが、この動きの土台となっている。
全体的なスイングイメージは「縦振り」だから、今の自分のスイングとマッチするのであれば、読んでみるのもいいかもしれない。
読後の所感
ドラコン選手のスイングは、縦振りと大きな上下動が特徴的なように思える。
大きな上下動を入れると、ブランコの原理同様「コリオリ力」が増大されることになるわけだから、飛距離アップに繋がるはずだし、縦振りによって発生する力の向きを考慮すれば、これら2つの要素は非常に相性がいいはずだ。

そんなことを思いながら、本書を読んでみたのだが、上下動についてはそこまで言及されていなかった。
基本の動きは「右脚を伸ばして、左脚を伸ばすだけ」とあるので、特に気にしなくても、通常のスイングより上下動は入るはずであるが、それを原動力としているとの記述を見つけることはできない。
であれば、「スプリントスイング理論」における飛ばしの原動力とは、いったい何なのだろうか。
一応、テコの原理が紹介されているが、この説明もいまいちピンとこない。支点、力点、作用点の定義があいまいなため、イメージが湧いてこないのである。
とまあそれはいいとして、せっかく本を読んだので、ここでいくつか自分の意見を述べさせてもらうことにしよう。
まず、スプリント理論の根幹となる、「走る動き」について。
「走る動き」と聞くと、100メートル走を思い浮かべる人がほとんだろう。
本書でも、そのような意味として述べられているので間違いはないのだが、私が興味を持ったのは、著者の岡本氏がスプリント理論を思いつくきっかけとなった、スピードスケートの動きのほうであった。
何の気なしにテレビを見ていた岡本氏、選手の脚の動きや手の動きを見て、ゴルフスイングそのものだと思ったらしいが、これについての異論はない。
ただ、スピードスケートの動きと走る動きは、似て非なるものである可能性が高いので注意が必要だ。
以前読んだスポーツ科学の本で、「スピードスケートのオフシーズントレーニングに自転車は有効。しかし、100メートル走をトレーニングに取り入れても優位性は見られなかった」なる文章を見た記憶があり、これは根本的に力の発揮の原理が異なることによるものだと考えられている。
スピードスケートでは、氷に圧力を加える(押す)ことで、前に進むことができる。
イメージとしては、氷を蹴るのではなく、できるだけ長い時間押すイメージがぴったりだろう。
対して100メートル走は、地面を踏み込み込むことは間違いないが、どちらかと言えば、脚を前に振り出すことが速く走るための秘訣らしい。(後ろに地面を蹴るのは間違った教えらしいから、速く走りたい方は気を付けて!)
スケートと100メートル走、どちらのイメージがゴルフスイングに近いのかと問われれば、私はスピードスケートのイメージのほうが近いと答えるだろう。
なので、もし「スプリントスイング理論」を試したけど、うまくいかなかった人は、走るイメージではなく、スピードスケートのように、地面に圧力をかけるイメージにすれば、うまくいくかもしれないことをお伝えしておきたい。
スピードスケートの世界チャンピオン、ウォザースプーンはこう言った。
「速くやろうとはしない、氷に圧力を与え続けるように我慢しているだけだ」
続いて、注意すべきはインパクト時のイメージ。
本書では、「腰を切らないからボールを押せるんだ」と述べてあるが、これは意識しないほうが無難じゃないかと思われる。
理化学研究所の研究員の方によれば、「体を止めて腕やクラブを走らせるのは間違い。そうすると結局力は脚を伝って地面に戻ってしまう」らしいので念のため。


私は、縦振りではなく、どちらかと言えば横振りを意識しているので、この「スプリントスイング理論」は合わないなと感じたわけだけど、おそらく、縦振りイメージの人にはマッチすると思う。
右手でクラブを押すようにして加速させるイメージを持っている人にも合うのではなかろうか。
この辺りの考え方については、以前「縦振り横振りいったいどっち?」という記事で、自論を述べているので、お時間あればご参考ください。


最後に
スイング理論はなんでもそうだけど、あう人にはあうし、あわない人にはあわない。
ただ、「スプリントスイング理論」では「縦振り」が明確に謳われているので、そういう意味では、あうのかあわないのかの判断が事前につきやすいと言えるだろう。
この「スプリントスイング理論」、飛ばしのための理論というよりも、個人的には、縦振りイメージが強い方向けの理論だという気がしたのであった。